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「保護者の安全基地を土台としての子どものチャレンジ―自己肯定感ではなく主体性を育てよう―」受講レポート

みなさん、こんにちは!トラ・レポ(トランジションセンターReporter)の禰占です。


8 月 9 日(日)に行われた「保護者の安全基地を土台としての子どものチャレンジ―自己肯定感ではなく主体性を育てよう―」の講座を受講しましたので、体験レポートさせていただきます。講師は、学校法人桐蔭学園 理事長、桐蔭横浜大学 学長・教授の溝上慎一先生です。


近年、学校教育の現場で子どもの自己肯定感に対する関心が高まっています。しかしなが

ら溝上先生は、多数の研究結果が自己肯定感と学業成績や社会的に望ましい行動との「相関

関係」を明らかにしながらも、自己肯定感が学業成績にプラスに働くという「因果関係」に

ついては十分に明らかにされていないと指摘します。その一方で自己肯定感が高いことで

競争的になったり、ナルシズムに陥るなど自己肯定感の負の側面は多数報告されているそ

うです。


以上のことをふまえ溝上先生は自己肯定感以上に注目すべき概念として「主体性」を挙げ

られています。主体性(agency)とは、「行為者(主体)から対象(客体)へとすすんで働きかけるさま」と定義されます。OECD が「Education 2030 プロジェクト」内で主体性を提示して以降、専門家が取り上げる機会も増えてきているようです。一方、学校現場の声として、子どもが新しいことにチャレンジしようとしない、つまり子どもの主体性が十分ではないという声はよく聞かれます。


溝上先生は、主体性を高めるためには、まず子ども自身の関心や興味を引き出していくこ

とが重要だと指摘します。もちろん子どもたちはいずれ社会に出ていくわけですから、自分

の興味や関心のあるものだけに主体的ということでは不十分です。したがって学校で与え

られる課題に対しても主体的に取り組むことが必要です。とはいえ、大人たちが良かれと思

って子どもに課題を与えてばかりだと、子どもが委縮してしまったり失敗を過度に恐れる

など、主体性が十分に育たない危険性もあるのです。要は、子どもの関心に配慮しながら社

会で求められる課題も与えていくといったバランスが求められます。


さて、主体性が自己肯定感以上に重要になるということであれば、親は具体的にどのよう

に子どもにかかわっていけばいいのか?と言う点が気になりますね。その問いに対する先

生の答えは意外にもシンプルで、「家庭を子どもにとって安全な場所にする、それがひいて

は子どもの主体性の強化につながる」ということです。その理由は、子どもの発達を空間的、時間的にとらえた発達理論から説明されます。


エリクソンという発達心理学者は、人間の人生を 8 つの段階に分け、それぞれの段階に

おける発達課題を図式化しています。エリクソンの発達理論の特徴は人の発達を生涯にわ

たるプロセスとしてとらえた点、発達を自己と他者、社会との関係からとらえた点にありま

す。乳児期における発達課題は、乳児と養育者との関係が問題となる、基本的信頼です。基

本的信頼とは赤ちゃんが何かしらの不快を感じて泣いた際に、養育者から適切な反応(不快

感をとりぞくような反応)が繰り返し返ってくるという経験を通じて、養育者への信頼感を形成していくことを指します。ポイントとなるのが、養育者に対する信頼感がひいては世界

に対する信頼感を形成していく点です。基本的信頼の達成は、自律・自発性・勤勉さといっ

たその後の心理的発達を下支えするものとされています。


子どもは乳児期以降、社会との関係性を教師や友人といった養育者以外の他者へと拡大

していきます。その過程においては、自分にとって不都合だったり、厳しい他者に出会うこ

とがあるかもしれません。しかし養育者との間に基本的信頼が形成されていれば、その安定

した関係をよりどころにして、厳しい状況にもうまく対処していく可能性が高いのです。親

は子どもが外界に出て様々な他者と関わる際に、過干渉になるのではなく、子ども自身の興

味や関心、責任を重視し、見守っていくことが求められます。親のそのような態度を通じて、子どもの主体性がはぐくまれていくと考えられます。


私は現在子育て中でありますが、つい過干渉になってしまって子どもの主体性を奪って

しまう機会が多いと自身の行為を反省しました。これからは可能な限り、子どもとの対話を

大切にし、彼ら自身の興味や関心に寄り添っていきたいと感じました。溝上先生、貴重なお

話ありがとうございました。



 

※本講座は2020年おもしろ理科教室のなかの保護者向け講座として行われました。

おもしろ理科教室では無料でご視聴いただけるオンデマンド講座を公開しております。


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